三叉神経痛とは
顔の一部に、数秒間から数分間程度続く発作性の電撃痛、激痛が繰り返し生じる疾患です。
激痛の部位は一側の鼻の横や歯ぐき、目のまわり等が多く、特に発症早期は歯痛と紛らわしく、鑑別が重要です。実際、虫歯と考えて歯科を受診し、歯の治療を受けられる患者さんも多くおられます。
典型的な三叉神経痛の特徴は
- 片側の顔面に起こる激痛
- 痛みの出現は発作性で1回の痛みの持続は数秒から数十秒の短時間
- 痛みの性状は “針で刺されるような” もしくは “焼けつくような” 電撃痛
- 発作は、会話・食事・洗顔・歯磨きなどの顔面の運動や、冷たい風があたる等の刺激で誘発される
- テグレトール(抗けいれん剤の一つ)という薬剤(内服薬)が効く
三叉神経痛の原因(神経血管圧迫症候群)
脳の血管(主に動脈)が顔面の感覚をつかさどる三叉神経を圧迫することが原因で、神経血管圧迫症候群の一つです。脳幹から出た三叉神経が脳槽内を走行する部分に動脈がぶつかって圧迫することで、動脈の拍動により神経が刺激されて顔面の強い発作性の痛みが生じるとされています。
三叉神経痛の診断と検査
特徴的な片側の顔面の激痛を呈している患者さんで、MRI検査を行い、神経と血管の関係を確認し、三叉神経が脳幹から出て脳槽内を走行している部位で血管が接している事が確認できれば、診断はほぼ確実と考えます。
治療法
特徴的な片側の顔面のけいれんを呈している患者さんで、MRI検査を行い、神経と血管の関係を確認し、顔面神経が脳幹から出る部分に血管が接している事が確認できれば、診断はほぼ確実と考えます。
治療法
治療法には 1.薬物治療 2.神経ブロック 3.ガンマナイフ 4.手術の4つの方法があります。
- 薬物治療
抗てんかん薬の一つである カルバマゼピンという薬が三叉神経痛に対しては非常に効果が高いです。しかし初期には効果が高いですが 長期的には効果が薄れることもしばしば経験されます。またカルバマゼピンには副作用が出る方がおり、ふらつき、眠気、じんましん、肝臓の機能の障害などが比較的多くみられます。これらの副作用のために継続が難しくなる事が少なくありません。 - 神経ブロック
神経ブロックは、経皮的に針を神経節に刺し、無水アルコールやグリセロールを注入したり、バルーンにより神経を圧迫したり、高周波(RF)で電気凝固したりするといった方法があります。 - ガンマナイフ
ガンマナイフは、三叉神経根の部分に放射線を集中照射して病変部を“灼く”ことで、治療効果を期待する治療です。外科的治療を希望されない方に有効な治療方法です。 - 外科的治療(微小血管減圧術)
三叉神経痛は血管(主に上小動脈など)による三叉神経への圧迫が原因であるため、この圧迫を解除すると痛みは治まります。体に対する負担は最も大きい治療法ですが病気の原因を直す根治的治療は手術治療のみです。耳の後に小さな開頭を行い、手術顕微鏡を用いて観察し、圧迫している血管を神経から離して再び血管が神経を圧迫しないように固定します(Transposition)。手術はABR(聴性脳幹反応)やSEP(体性感覚誘発電位)などの術中神経モニタリング下に安全に行います。手術によって概ね90%以上の患者さんの症状(痛み)が消失もしくは改善し薬が不要となります。
当科での最近の手術例
0歳代男性の患者さんです。典型的な右三叉神経痛の診断です。最初はテグレトール内服で効果がありましたが、次第に増量しても充分な効果が得られなくなり、外科的治療を希望されました。
上段左がMRIで右が脳血管撮影です。三叉神経( 星印 )に、血管(上小脳動脈 黄矢印)が接しています。下段が術中写真です。三叉神経( 星印 )の裏側から、神経を血管(上小脳動脈、黄矢印)が圧しています。上小脳動脈を移動させ、小脳テントにフィブリングルー(生体のり)を用いて圧着固定しています(下段右図)。
患者さんは 術直後より 痛みから解放されました。