くも膜下出血について
くも膜下出血は、脳卒中の一つで日本では概ね人口10万人あたり、20人から50人くらいに起こるとされています。その発症は高齢者に限らず壮年期にも多く発症します。
一旦、くも膜下出血を発症すると、概ね3人に1人は亡くなり、救命できた場合でも重篤な後遺障害を余儀なくされる事が少なくありません。元通りの生活が出来る様になる確率は概ね20%程度と言われています。くも膜下出血をいったん起こしてしまうと、病院に着いて診断がついた時点でどのくらい重症のくも膜下出血であるかによって、予後つまり大きな後遺症が残るのか、元の生活に戻れるかどうかが決まってしまいます。そのため、「くも膜下出血を起こす前に、その原因を治療したい」という考えになります。くも膜下出血の約9割は、脳の動脈にできた瘤(脳動脈瘤)が破裂すことによっておこるため、この動脈瘤を破裂する前に治療しようという考えになります。
未破裂脳動脈瘤
日本では、脳ドックの普及や非侵襲的画像診断装置の普及によって、多くの未破裂脳動脈瘤が診断されています。50歳以上の年齢の方で調べると、実に2〜6%の方が動脈瘤を持っていると言われています。しかし、くも膜下出血の発生率は先ほど述べたように、10万人あたり20人から50人ですので動脈瘤の大半は破裂しないままで、くも膜下出血を起こさないという事になります。脳動脈瘤の破裂率に関しては多くの研究がなされています。
日本人の脳動脈瘤の破裂率は欧米人の2.8倍破裂しやすいと言われており、年間破裂率は0.95%(UCAS Japan)です。
このような未破裂脳動脈瘤が偶然発見されたらどうすればいいでしょうか?
それは、患者さんの状態(年齢等)、その動脈瘤の破裂しやすさ、治療に伴うリスクのバランスにて決定されるべきものであると考えます。簡単に言うと患者さんが、若くて元気であり、動脈瘤が破裂しやすいと予測され、治療に伴うリスクが低い場合には積極的に治療を考慮すればいいですし、逆に、ご高齢で破裂しそうにない瘤で治療に伴うリスクが高い動脈瘤であれば経過観察をすべきであるということです。
未破裂脳動脈瘤の破裂率に関する過去の多くの研究結果から、以下の因子が破裂しやすさに関係したと報告されています。
- 動脈瘤のサイズ(大きい方が破裂しやすい)
- サイズに変化がある(検査の度に大きくなっている)
- 症状を出している動脈瘤
- 形がいびつな動脈瘤(ブレブの存在・とがった形状)
- 特定の部位(破裂しやすい部位がある)
- 多発性(2つ以上瘤が存在する)
- くも膜下出血の既往(自分が過去にくも膜下出血を起こした)
- 家族歴(家族にくも膜下出血を起こした方がいる)
- 年齢(高齢者の方の方が出血しやすい)
- 喫煙
- 高血圧
治療適応・方法の決定
先にも述べましたが、以下(A~C)の3つの項目を総合的に検討し患者さんが治療により利益を得ると判断される場合には治療を勧め、そうでない場合には経過観察を勧める。そして充分な説明を受けた後、最終的に患者さんが意志決定をするということです。
- 患者さんの年齢(状態)
- 動脈瘤の破裂しやすさ
- 治療に伴うリスク
- 年齢に関して
基本的に75歳未満で、現在健康でかつ自分で判断の出来る方が治療の対象になると考えています。しかし年齢に関しては実際の年齢以上に一人一人の個人差が大きいので個別に判断する必要があります。また、患者さんが若ければより治療を勧め、ご高齢であれば経過観察を勧める方向で考えています。 -
動脈瘤の破裂のしやすさについて
以下の特徴を有する動脈瘤は破裂の危険性の高い群と考えられますので治療を検討するよう勧められています
①大きさが5mm以上のもの
②大きさが5mm以下であっても
a)症候性(症状を出している)動脈瘤
b)前交通動脈や内頸動脈-後交通動脈部などの部位に存在する脳動脈瘤
c)形がいびつな動脈瘤(Dome neck aspect比が大きい・不整形・ブレブを有する) - 治療に伴うリスクについて
術者の経験や技量・過去の治療実績を勘案して、治療により合併症(後遺症)を生じる可能性が相当に低いと判断される場合に、治療をお勧めするようにしています。
未破裂脳動動脈瘤の治療
未破裂脳動脈瘤の破裂を予防する根治的な手術法として
- 脳動脈瘤ネッククリッピング術(開頭手術)
- 血管内塞栓術(カテーテル手術)
の2種類の治療法があります。
いずれの方法も長所と短所があり、また100%安全であるということではありませんので動脈瘤の位置や大きさ・形状などを検討し、より有利な治療法を選択・提案しています。
当院では、脳神経外科専門医が3名(うち、脳卒中の外科技術指導医 2名)と血管内治療専門医が2名(うち、血管内治療指導医 1名)が常勤スタッフとして勤務し中心となって治療を担当しています。
当科での手術例(開頭クリッピング術)
40歳代女性の患者さんです。
左中大脳動脈瘤(未破裂)の手術写真です。動脈瘤はBlebを伴い形状変化があったため手術となりました。複雑な形態の瘤は複数のクリップを用いて完全に閉鎖します。下段右の図は術中ICG-ビデオアンギオグラフィーで、瘤が消失している事を確認しています。