内視鏡検査・治療を行う領域については、胃や大腸などの消化管領域、胆汁や膵液の通り道となる胆管・膵臓領域、呼吸に関与する気管支領域の3つに分類されます。各領域の検査について各項目で説明しています。
消化管領域
1. 上部消化管(食道から胃・十二指腸まで)
a)上部消化管内視鏡検査(胃カメラ検査)
- 上部消化管に病気があるかどうか調べる、いわゆる「胃カメラ」検査です。直径約10mmの内視鏡を使用して潰瘍、ポリープ、腫瘍などがないか観察し、必要な場合は組織の一部を採取して顕微鏡検査を行います。上部内視鏡には口から挿入する経口内視鏡と鼻から挿入する経鼻内視鏡があります。経鼻内視鏡はのどの反射(「オエッ」となる)が軽いため、のどの敏感な方に向いていますが、経口内視鏡検査に比べて画質がやや劣るため、検査目的によって経口か経鼻か使い分けています。
当院では胃がんや食道がんをできるだけ早期に発見するため、経口内視鏡の全検査において拡大機能付きのハイビジョンスコープを使用しています。拡大観察に加えてNBI(Narrow Band Imaging)という特殊光を用いることにより、早期がんの表面にみられる不整な毛細血管を捉えることが可能となり、より早期にがんを発見し得るように診断しています。また、2020年7月に新しい内視鏡システム(オリンパス社EVIS X1)を奈良県内で最初に導入しました。
早期胃がんの内視鏡診断
通常の内視鏡での観察
赤くなっている部位は
ポリープかがんか、
診断しきれません。
NBIを用いた拡大観察
表面構造と微小な血管の
不整からがんと診断可能です。
b)早期胃がんに対する内視鏡治療
- ごく早期に発見された胃がんは内視鏡を用いて切除することにより、根治が可能とされています。従来はスネアという投げ縄のようなワイヤーをかけて締め付けて焼き切る方法で切除していましたが、より広範囲に確実に切除する方法として現在は、胃カメラの先端から電気メスを出して病変を剥離して切除する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を行っています。当院では、ESD法がまだあまり普及していなかった2004年から導入し、これまでに1000件を超える治療実績があります。
早期胃がんの内視鏡治療(上記「内視鏡診断」の病変)
10年以上前に他院で
ESDを施行後の部位に
早期胃がんが発生
周囲から切開
病変の下に水を
注入して浮かし上げ切除
切除後
回収した標本
完全一括治癒切除
ESD後6ヶ月
傷は完全に治り
正常な粘膜で覆われています
2. 大腸
a)大腸内視鏡検査(大腸カメラ)
- 肛門から約12mmの内視鏡を挿入して、大腸内にポリープ、腫瘍、炎症、憩室などがないか観察する検査です。ただし、大腸内視鏡検査を行うためには大腸の中に便が残っていない状態にする必要があり、検査前に下剤を服用していただく必要があります。
大腸は長く複雑な形状をした臓器で、その長さや形状には個人差が大きく、カメラを大腸の最深部である盲腸まで挿入できないことがあります。その際にはスコープがどのような形状で挿入されているか確認が必要であり、当院では大腸カメラのすべての検査台に挿入形状観測装置(ナビゲーションシステム)もしくはX線観測装置を備えています。 -
なお、大腸内視鏡では検査中に大腸の内腔を伸展させて観察するため、送気しながら観察するのですが、送気した空気によりお腹が張ってしんどくなることがあります。そのため、当院では腸から吸収されやすく検査後大腸内に残りにくい二酸化炭素を大腸内視鏡検査全例において使用しています。
ナビゲーションシステムによる内視鏡挿入形状の確認
b)大腸ポリープ・腫瘍の内視鏡的切除
- 大腸カメラで大腸内を観察中にポリープや腫瘍が発見された際、小さなものであれば同時に切除することが可能です。病変の大きさにより、ワイヤーで締め付けて切除するポリペクトミー、病変の下に水を注入して浮き上がらせてからワイヤーで切除する粘膜切除術(EMR)、電気メスで剥離して切除する粘膜剥離術(ESD)などの方法を使い分けて切除します。ただし、大きな病変に対しては後日改めて、入院のうえ切除を行っています。
3. 小腸
a)小腸内視鏡検査
- 小腸は非常に長い腸で、以前はいかなる方法でも観察することは困難でした。近年、カプセル内視鏡やバルーン付き内視鏡が開発され、観察可能となりました。
カプセル内視鏡という薬のカプセルの形をした内視鏡を飲み込んで撮影した画像を記録する方法と、バルーン内視鏡という長い小腸を折り畳むように縮めながら奥へ進んでいく方法があります。カプセル内視鏡は検査が楽に受けられ、バルーン内視鏡は同時に止血術などの処置が可能であるという特徴があります。当院ではカプセル内視鏡・バルーン内視鏡のいずれも施行可能であり、疑われる疾患により最適な方法を選択して、検査を施行しています。
小腸バルーン内視鏡
正常小腸粘膜
小腸悪性リンパ腫
生検により確定診断
カプセル内視鏡
カプセル内視鏡の写真
小腸出血例:発赤点が出血源
胆管・胆のう・膵臓領域
肝臓では胆汁という消化液が生成され、胆管という管を通って十二指腸に排出されます。その胆管の途中には胆汁を一時的に貯留させる胆のうという袋があり、胆汁は一時的に胆のうに貯留して濃縮され、必要に応じて胆のうが収縮し、貯留している胆汁を十二指腸に送り出します。
また膵臓では膵液という消化液が分泌され、膵管という管を通って胆管と同じところで十二指腸に排出されます。
1. 内視鏡的胆管・膵管造影検査および処置(ERCP)
- 胆管や膵管の出口である十二指腸まで内視鏡を挿入し、造影剤を直接注入して調べる方法として胆管膵管造影(ERCP)という検査法があります。この方法により胆管や膵管に狭窄や結石などがないか調べることができます。現在では検査のみならず、胆管内に器具を挿入して結石を除去したり、狭窄している部位にステントというプラスチックや金属でできたチューブを留置したり、多くの処置を行っています。
総胆管結石の内視鏡的採石術
胆管造影
黒く丸く見えるのが結石
胆管内超音波検査
白く見えるのが結石
器具を用いて総胆管内の
結石を摘出
- ERCPによりさまざまな検査や処置が可能ですが、胆管や膵管内を直接見ることはこれまでできませんでした。当院では胆管内に直接挿入して観察可能な胆膵管用内視鏡(SpyglassDS)を奈良県内で最初に導入しました。直接観察することにより、膵臓や胆管の手術をする前に切除範囲を明確にし、これまで治療困難であった胆管結石を直視しながら衝撃波結石破砕装置を併用して砕石するなど、種々の検査・治療が可能となりました。
胆膵管用内視鏡(Spyglass DS)
総胆管結石
結石を直接鮮明に観察可能
- 胃を切除された方に対する胆管・膵管検査および処置
このERCPという方法は、食道から胃を通って十二指腸まで内視鏡を挿入して処置を行います。しかし、何らかの疾患で胃を切除されて小腸へつなぎ変えられている場合は、通常のERCP用のカメラを十二指腸まで挿入することが困難なため、これまで処置は困難とされていました。
近年ではバルーン小腸内視鏡を用いることにより、胃を切除された方ではこれまで到達できなかった十二指腸まで内視鏡を挿入し、胆管・膵管の検査・処置することが可能となりました。当院ではこのようなERCPを施行しやすいように改良された専用内視鏡を備えており、胃を切除された方に対する胆管・膵管処置件数は全国トップレベルです。
胃を全て切除された方の総胆管結石
小腸内視鏡を用いて胆管造影・採石術
2. 超音波内視鏡検査
- 肝臓や胆のう、膵臓という臓器を調べる方法として超音波検査(エコー検査)があります。CTやMRIとった断層撮影に比べてミリ単位の細かな病変を観察することが可能な検査方法なのですが、膵臓や胆のうといった臓器は腹部の深いところに存在するため、体外からのエコーではきれいに描出することができないことがあります。しかし、膵臓や胆のうは胃や十二指腸に接した臓器で、胃や十二指腸から超音波を出すことにより描出の妨げとなるものが存在しないため、きれいに描出することが可能です。超音波内視鏡とは、先端にエコー検査で使用するプローベを装着して膵臓や胆のうなどを観察する内視鏡です。
超音波内視鏡には、内視鏡を中心に360°観察可能なラジアル型と、内視鏡に直行する一方向に描出するコンベックス型があり、観察したい部位や範囲によって選択します。
当院ではラジアル型・コンベックス型ともに新しい機種を備えており、検査する病変により、どちらの超音波内視鏡が適しているか検討のうえ、検査を施行しています。
- 超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)
種々の疾患の診断において、細胞を採取して顕微鏡で観察し、確実に診断することは大切です。胃や十二指腸に接する臓器やリンパ節などの細胞を採取して診断しなければならないとき、超音波内視鏡を用いれば胃や十二指腸内から針を刺して細胞を得ることができ、このように採取する方法が超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)です。この方法で細胞を採取することにより、良性か悪性か診断困難な病変や炎症の原因などの診断が可能となり、適切な治療方法の選択が可能となります。
この方法を用いて診断だけではなく、感染により膿がたまった空間が胃に接して存在しているときにはEUS-FNAの技術を用いてたまった膿を排出することができ、当院では診断のみならず治療も多く行っています。
EUS-FNA用内視鏡と穿刺針
超音波で腫瘍を描出
腫瘍を穿刺して細胞を採取
(青矢印が穿刺針)
気管支領域域
1. 気管支鏡検査
- 気管支鏡とは肺や気管支の疾患について調べるカメラのことで、φ4~6mmの細いカメラを口から気管支に挿入し、気管支の内部を直接観察する検査方法です。病変が発見されれば細胞や組織の一部を採取し、顕微鏡で見て診断することが可能となります。近年では肺がん治療の際に、特定のタンパクや遺伝子をターゲットにした分子標的薬という薬剤が使用されるようになっています。薬剤の選択に際してはがん遺伝子検査のため細胞の採取が必要であり、当院での気管支鏡検査の件数は年々増加しています。
気管支内視鏡
気管支内観察
矢印で囲まれた部位が癌
- 超音波気管支鏡ガイド下針生検(EBUS-TBNA)
気管や気管支周囲に存在するリンパ節を、先端に超音波のプローベを装着した気管支鏡で描出し、超音波画像を見ながら針を刺して細胞を採取する検査方法です。この検査法により肺がんだけでなく、悪性リンパ腫やサルコイドーシスなどを診断することが可能となります。
気管に接した腫大したリンパ節
腫瘍を穿刺して細胞を採取
(青矢印が穿刺針)