髄膜腫について
髄膜腫は、脳の表面を被っている硬膜(硬膜のくも膜顆粒細胞)から発生する脳実質外腫瘍で、その多くはWHO grade I に分類される良性腫瘍です。近年脳ドックなどで無症候で偶然発見される機会が多いですが、痙攣発作や脳の局所症状(高次機能障害や麻痺・しびれ・目の症状)などで発見される場合も少なくありません。
髄膜腫の治療について
治療は基本的に手術により摘出すること以外にありません。全摘出できればほぼ根治が期待でき,再発することはまれです。薬剤の治療は効果がありません。
どうしても摘出できない部位や悪性のものに対して腫瘍の増大をコントロールする目的で放射線治療を行うことがありますが、必ずしも有効な効果が得られるとは限りません。
手術リスクの高い部位などでは意図的に手術治療とγナイフなどの定位放射線治療を組み合わせる場合もあります。
治療適応
偶然発見された無症候(症状のない)の小さな髄膜腫は基本的に経過観察をお勧めしています。定期的にMRIなどを撮影し、腫瘍の大きさや性状に変化がないか観察します。
経過観察を行うことも治療の選択肢の1つです。
治療(手術)をお勧めするのは以下の場合です。
A.症状を出している腫瘍
B.症状を出していなくとも
1)大きな腫瘍で脳を強く圧迫している例
2)若年例で、現時点で小さくとも確実に大きくなってきていることが確認される場合
髄膜腫の手術はその部位により大きく異なります。脳表にできたものは摘出が比較的容易です。一方、脳深部(特に頭蓋底部)にできたもので、脳実質や神経、血管などを巻き込んで存在しているものでは全摘出することが困難になります。つまり手術に伴うリスクは、個々の腫瘍により大きく異なります。したがって、術者の経験や技量・過去の治療実績を勘案して,手術により患者さんが利益を得られると判断した場合に手術をお勧めしています。
安全な手術への取り組み
当科では摘出が難しい腫瘍を安全に摘出するために様々な取り組みを行っています。
- 神経機能温存のため、各種の術中神経モニタリングを駆使した手術
- ナビゲーションシステムの使用
- 計画的2期手術(意図的に手術を2回に分けて行う)
- 腫瘍が重要な血管や神経を巻き込んでいるとき、意図的に腫瘍を残して放射線治療と組み合わせた治療とする
当科での最近の手術例
症例1
左円蓋部髄膜腫
20歳代女性。左側頭部痛にて受診され診断されました。
左側頭葉表面に強く癒着していましたが、丁寧に全摘出を行いました。
術前造影MRI
術後造影MRI
症例2
鞍結節部髄膜腫
70歳代女性。右眼の視力障害と右眼の視野障害(耳側半盲)で受診されました。
鞍結節部の腫瘍が右視神経を強く圧しています(右図 黄矢印)。
右眼の視野障害(耳側半盲)を認め、視力は右0.5 左1.0でした。
造影MRI 矢状断
T2強調像 水平断
手術は視神経のモニタリングであるVEP(視覚誘発電位)を行いながら摘出操作をすすめました。下は手術写真ですが、腫瘍(左図 黄矢印)が右視神経(黒矢印)を強く圧しています。
腫腸摘出前
腫腸摘出後
腫瘍に少し触れただけで後頭葉のVEP波形の振幅が著明に低下するため、操作を一時停止して回復してから手術操作再開するなど、視神経の機能を評価し機能温存を図りながら手術を行いました。
術後の造影MRI 矢状断
術後視力は右1.0、左1.0に回復し視野障害も早期に改善しました。神経脱落症状なく独歩退院されました。
症例3
蝶形骨縁髄膜腫
60歳代男性。緩徐に進行する高次機能障害と歩行障害で発症しました。
頭蓋底に広範囲な付着部を有する髄膜腫で、左内頸動脈(右図 赤矢印)や中大脳動脈、左視神経(右図、黄矢印)などの重要構造物を完全に腫瘍内に巻き込んでおり、摘出が難しいタイプです。
造影MRI 冠状断
T2強調像 冠状断
数種の神経モニタリング監視下に顕微鏡手術の技術を駆使して、重要構造物にこびりついた腫瘍を摘出しました。下は摘出後の術中写真です。左内頸動脈(黒矢印)や左視神経(黄矢印)を傷つけることなく、周囲の腫瘍は丁寧に摘出されています。
下は術後のMRIですが腫瘍がほぼ全摘出されています。術前の症状(高次機能障害や歩行障害)は改善し退院されました。
造影MRI 冠状断
造影MRI 水平断