当科で扱う主な疾患・治療
冠動脈疾患:心臓を栄養する血管の病気
弁膜症:心臓の部屋を仕切る4つの弁が壊れた病気
心臓腫瘍:心臓の内部にも腫瘍が発生します
大動脈疾患:心臓から駆出された血液が通る重要な血管の病気
末梢血管疾患:足の血管の病気
静脈疾患:心臓へ戻る静脈血が通る血管の病気
2023年 手術件数
手術内容 | 手術件数 |
---|---|
心臓・大血管 | 169 |
ステント・末梢血管 | 84 |
静脈・その他 | 44 |
《冠動脈疾患》
- 狭心症
- 急性心筋梗塞
- 梗塞後合併症など
心臓の筋肉(心筋)に血液を供給するための動脈(冠動脈)は主に3本の血管(前下行枝、回旋枝、右冠動脈)があります。これらの血管が動脈硬化や糖尿病等により狭くなり、血液供給が十分にいきわたらないことで心筋にダメージが生じる状態です。心筋が壊死に陥っていない状態を狭心症、壊死に陥ってしまった状態になると心筋梗塞と診断されます。心筋梗塞を発症後壊死に至った筋肉が脆弱となり心筋の壁に穴が開いたり、心筋が破裂(心室穿孔)して致命的な状態となることがあります。また心室自体の筋肉が薄くなり瘤化することもあります(心室瘤)このように心筋梗塞によって発生する状態を梗塞後合併症といいます。
冠動脈疾患に対する治療
冠動脈の治療は内科的にカテーテルを用いて狭くなった部位を拡張させる方法(経皮的冠動脈形成術)と外科的に動脈や静脈の血管を移植して新たなルートを作成する方法(冠動脈バイパス術)があります。治療に関しては患者様の全身状態や病変の状況により適切な方法を選択しております。
冠動脈バイパス術
※人工心肺を使用する場合と使用しない場合があります
冠動脈が狭窄もしくは閉塞し血流不足となっている領域に、新たな血管をつなぎ血流の迂回路(バイパス)を作成する手術です。
使用する血管は御自身の体の一部の血管を使用します。
- 内胸動脈(胸の血管)
- 大伏在静脈(下肢の血管)
- 胃大網動脈(胃の周囲の血管)
- 橈骨動脈(手の血管)
《弁膜症》
- 大動脈弁狭窄症、閉鎖不全症
- 僧帽弁狭窄症、閉鎖不全症
- 三尖弁閉鎖不全症
心臓には4つの弁(三尖弁・肺動脈弁・僧帽弁・大動脈弁)があり血流の調節を行っています。
提供元:エドワーズライフサイエンス(株)
心臓の弁が開けなくなった状態を狭窄症、閉じることが障害された状態を閉鎖不全症(逆流)と呼んでいます。
これらの状態が継続されることにより心臓自体へのストレスが生じて、胸痛・息切れ・むくみなどの症状が出現し、心拡大・心肥大・不整脈から心不全へと進行します。さらに心筋自体の収縮力が低下してくると、日常生活に支障をきたすのみならず生命への危険をも生じる結果となります。特に近年は動脈硬化による大動脈弁狭窄症が増加してきており、心不全症状の出現からの心機能低下は速く、突然死や失神の原因となりえます。
僧帽弁閉鎖不全症
大動脈弁狭窄症
弁膜症に対する治療
- カテーテル治療(大動脈弁狭窄症に対してカテーテルにより人工弁を挿入)
- 弁置換術(人工弁に置換する術式)
- 弁形成術(自己弁を温存して形成する術式)
経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI:Trans Catheter Aortic Valve Implantation)
人工心肺を使用することなく足や肩の動脈、心尖部からカテーテルを用いて大動脈弁位に人工弁を運び展開留置する方法です。当院でも2021年より本方法を開始し、高齢の患者様も手術翌日より食事や歩行が可能で、入院期間も短く早期退院されております。高齢者や高リスクの患者様には良い治療法と考えております。治療法の選択は循環器内科や心臓血管外科の医師によるHeart Team Conferenceで患者様の状態を総合的に評価し決定しております。
弁置換術や弁形成術は、人工心肺下に心停止法を用いて狭窄症や閉鎖不全症などにより機能不全に陥った弁を取り換える(置換)もしくは自分の弁を使用して治療(形成)する手術です。
その場合に使用される人工弁には機械弁と生体弁とがあり、弁の状態・全身状態・年齢などを総合的に判断して選択されます。
術式 | 長所 | 短所 | ワーファリン |
---|---|---|---|
弁置換術 (機械弁) |
耐久性が良好 | ワーファリン | 生涯 |
弁置換術 (生体弁) |
高齢者向き | 劣化による再手術の可能性 | 術後約3か月 |
弁形成術 | 心機能温存 | 逆流再発による再手術の可能性 | 術後約3か月 |
※ワーファリン:血栓(血液の塊)を予防する為の薬剤
機械弁
提供元:泉工医科工業(株)
生体弁
弁形成用リング
提供元:エドワーズライフサイエンス(株)
カテーテル弁置換術
《大動脈疾患》
- 大動脈瘤
- 急性大動脈解離
- 肺塞栓症
(1)大動脈瘤
大動脈瘤とは大動脈の一部もしくは全体が拡張した状態です。
様々な分類法があります。
原因別:
真性瘤(主に動脈硬化性)
解離性動脈瘤
仮性瘤(感染性・吻合部の破綻など特殊な状況が多い)
形態別:
紡錘状瘤(比較的全体が拡張)
嚢状瘤(局所のみ拡張)
部位別:
胸部大動脈瘤(大動脈基部拡張症・上行大動脈瘤・弓部大動脈瘤・下行大動脈瘤)
胸腹部大動脈瘤
腹部大動脈瘤
原因別及び形態別分類
部位別分類
提供元:メドトロニック(株)
動脈瘤は部位・形態・原因によって差はありますが、多くの場合は無症状で経過します。
症状がある場合でも部位により異なります。
例)
- 声のかすれ
- 食べ物が飲み込みにくい
- お腹の拍動
- 便秘 など
一般的には、時間経過と共に大動脈瘤は拡張し(1-2mm/年)、縮小することはありません。
個人差はありますが、「胸部大動脈瘤では50-60mm以上」「腹部大動脈瘤では50mm以上」で破裂の危険性が高くなるとされています。
ある一定の大きさを超えて拡張した動脈の壁が血圧に耐えられず動脈瘤が破裂した場合、病院外の場合には死亡率が高く(90%以上)、非常に重篤な疾患です。
救命の為に緊急治療が必要となります。
動脈瘤破裂例
腹部大動脈瘤 破裂の危険性
破裂による突然死を予防し、快適な日常生活を過ごしていただく為にも治療が必要になります。
大動脈瘤に対する治療
- 人工血管置換術(外科手術)
- ステントグラフト内挿術(カテーテル治療)
- ハイブリッド治療(人工血管置換術とステント治療の組み合わせ)
瘤の大きさ、形態、部位、全身状態により適応・術式が決定されます。
治療例:
弓部大動脈瘤に対する人工血管置換術
胸腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術
提供元:胸部外科学会ホームページより抜粋
腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術
下行大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術
腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術
提供元:メドトロニック(株)
(2)大動脈解離
大動脈の壁は内膜・中膜・外膜の3層構造からなっていますが、ある時突然に大動脈の壁が裂けてしまう病気です。
多くは激痛(裂ける場所によって痛みの部位は胸・背中・腹・腰など様々)で発症します。
発症と同時に意識を失ったり、突然死することもある非常に重篤な疾患です。
救命の為に緊急治療が必要となります。
裂けた大動脈の部位によって、大きく2型に分類されています。
A型:上行大動脈が裂けている場合(心臓に近い部位が裂けている)
B型:上行大動脈が裂けていない場合(心臓から離れた部位のみが裂けている)
急性大動脈解離に対する治療
A型:人工血管置換術(外科手術)
f B型:絶対安静・厳重な血圧管理
※場合によっては外科手術やカテーテル治療が必要になることもあります
A型解離に対する人工血管置換術
《その他の心臓疾患》
- 心臓腫瘍
- 心筋症
- 不整脈(心房細動など)
- 先天性心疾患(成人)
(1)心臓腫瘍
心臓腫瘍の多くは心房の中核から発生し左房側に腫瘍を拡大させる左房粘液腫です。その他の心臓腔や弁に発育するものもあります。腫瘍の一部が脳などに塞栓として遊離し重大な影響を起こすことがありますので、除去する必要があります。また主要自体の発生部位と大きさによってはが心臓の弁にはまり込んで、弁の動きを止めてしまうことがあります。このような場合には急性循環不全により突然死をきたすことがあります。
心臓腫瘍にたいする治療法
腫瘍摘出術
この手術は、腫瘍を除去する手術ですが、発生場所の心臓筋を除去しておかないと再発の可能性が高くなります。そのため除去して欠損となった心筋を修復を同時に行う手術です。
(2)不整脈(心房細動)
弁膜症などでは心房に負荷がかかり心房の筋肉が震える状態となることがあります。これを心房細動と言います。心房細動になると心房筋内の刺激経路が機能障害を起こして心房から心室への血液駆出が不安定となります。そのために血圧が低下しめまいやふらつきが生じたり、心不全に至ることもあります。さらには、心房が震えることで心房内に血栓が発生し、その血栓が脳や多臓器に血栓塞栓を起こし、脳梗塞や下肢虚血、その他の臓器虚血の原因となり、塞栓を来した臓器によっては生命的な危険性にかかわる場合があります。
心房細動にたいする治療法
メイズ手術(迷路手術)
この手術はその刺激の流れを整える手術です。心房内の異常な刺激回路を検索し、その回路を焼灼することで正常な回路を残していく手術です。
この手術にて薬70~80%が元の正常なリズムに戻ります。
《末梢閉塞性動脈疾患》
- 閉塞性動脈硬化症
- 急性動脈閉塞
(1)閉塞性動脈硬化症
動脈硬化やたばこ、糖尿病などにより下肢の動脈が狭くなり、歩行に際して下肢の筋肉への血流供給が十分でないために、下肢の疲労感や痛みを生じます(間欠性跛行)。
血管の狭窄または閉塞部位により治療法も異なります。
一般的には上記の間欠性跛行がほとんどですが、進行すると安静にしている時でも痛みやしびれを生じたり、足先に潰瘍や壊死を伴う場合があり、このような重症では下肢の切断に至ることもあります。リスク因子としては、高齢、喫煙、肥満、高血圧、高脂血症、透析
治療法
- 運動療法&薬物療法
- カテーテルによる血管拡張術
- 人工血管や自家静脈によるバイパス術
(2)急性動脈閉塞
末梢の動脈に突然にコレステロールや血栓の塊が詰まる状態で、不整脈などでも起きることがあります。急激に発症するため末梢への血流が急激に閉ざされることにより足の筋肉の壊死を来すことあり、広範囲な障害は致命的になることがありますので、緊急手術が必要となる病態です。しかし、発症からの時間経過や閉塞部位によっては手術が困難となる場合があります。
治療法
- 血栓除去術:血栓閉塞部位にバルーンを挿入して血栓をかきだす方法
- バイパス術:人工血管を使用したバイパス術
- 血管形成術:カテーテルを用いて狭くなった血管を広げる方法
《静脈性疾患》
- 静脈血栓症
- 下肢静脈瘤
(1)静脈血栓症
下肢の静脈は足の深いところを走行する深部静脈と表層を走行する表在静脈があり、それらをつなぐ交通枝から心臓へ血液を戻す作用を行っています。深部静脈に血栓が生じたものを深部静脈血栓症、表在静脈に生じて炎症を発生するものを血栓性静脈炎と言います。いずれも血栓の遊離が生じると、肺を流れる動脈を閉塞する肺梗塞の原因となります。
治療法
- 血栓溶解療法:抗凝固剤を用いて血栓を溶かす、または増加を抑制する方法
- カテーテル血栓吸引:カテーテルを用いて血栓を吸引する方法
- 血栓除去術:外科的に血栓を除去する方法
(2)下肢静脈瘤
表在静脈の大伏在静脈や小伏在静脈の血液逆流防止の弁が、長年の重力に対して障害を受け逆流を来すことにより、立位となった時に静脈の血液が下肢へ逆流し、静脈のうっ血を来す病気です。徐々に進行するため、当初は有意な症状ありませんが、下肢の倦怠感やむくみ、こむら返りなどの症状が現れます。重症化すると、下肢に色素沈着や湿疹、潰瘍を生じることがあります。
治療法
- 圧迫療法:弾力性包帯やストッキングにて表在静脈を圧迫して逆流を防止する。
- ストリッピング or 結紮術:外科的に逆流している静脈を抜去する、または逆流部位の静脈を糸で結んで逆流を防止する。
- レーザー焼灼術:逆流を来している静脈をレーザーで焼灼して閉塞させる。
上記の疾患または治療法に関して、ご不明な点があれば遠慮なくご相談ください。